ご あ い さ つ
広島城のふもとに広がる「基町」は、広島がはじまった町、「基(もと)いの町」としてその名がつけられています。町としての歴史は安土桃山時代にまでさかのぼり、江戸時代には武家屋敷が建ち並んでいました。時がうつり明治時代に入ると、広島城には軍の司令部が置かれました。さまざまな軍の施設が建ち、西日本における軍事中核地となります。そして1945年8月6日、原子爆弾の投下により、爆心地から半径2km以内に位置する基町は壊滅的な被害を受けました。
終戦後、国有地となった基町には、戦災者や外地からの引揚者のために市営・県営の木造応急住宅が建てられ、そこに入りきれない人々は旧太田川沿いにバラック住宅を建てて暮らしました。復興事業が施されながらも、抜本的な住宅環境の改善にはつながらず、1968年から1978年にかけて実施された基町地区再開発事業において、現在の広島市営高層アパートと広島県営長寿園高層アパートが建設されます。
「この地区の改良なくして広島の戦後は終わらない」と言われた基町は、広島の復興を象徴する町といえます。基町が歩んできた道のりは、広島の歴史そのものであり、また復興のプロセスと重なります。
戦後75年以上を経た現在の基町を見ると、建物の老朽化、少子高齢化、外国人居住者増加による生活習慣等の相違、まちのにぎわいや活力の低下といった課題に直面しています。それは近年日本各地に見られる社会的な問題ともいえます。
このような基町は、広島の歴史や社会、復興、都市計画や建築、そして多文化・多世代共生社会などを考える上で多くの示唆を与えてくれます。そのため、本展では基町をテーマとして取り上げることで、広島について学び、知り、考える機会を創出していきたいと考えています。「基(もと)いの町」展では、広島にゆかりのある5人の美術家を招聘します。今年度は新型コロナウィルスの影響により、当初予定していた基町についての作品制作展示が難しいため、参加作家には今後の制作に向けた取材や下調べ(リサーチ)を行ってもらいます。本展では、会期を前半と後半の2回に分け、前半では、参加作家を紹介するために旧作品を展示します。また後半では、参加作家によるリサーチの成果展を開催します。
広島にとって「基(もと)い」の地である基町の姿を、5人の美術家の視点をとおして示すことで、過去や現在を見つめながら将来を考える契機となれば幸いです。参 加 作 家
久保寛子 / Hiroko Kubo
1987年広島県生まれ。広島市立大学彫刻科卒業、テキサスクリスチャン大学美術修士課程修了。 先史芸術や民族芸術、文化人類学の学説のリサーチをベースに、身の回りの素材を用いて、農耕と芸術の関係などをテーマに作品を制作する。2017年に六甲ミーツアートにて大賞を受賞。主な個展に、「Wisdom of the Earth」(2020,ギャラリーヤマキファインアート / hirose collection)、「ブリコラージュの女神」(2017,gallery G)、主なグループ展に「さいたま国際芸術祭」(2020,旧大宮図書館)、「いのち耕す場所ー農業ひらくアートの未来」(2019, 青森県立美術館)、「Ascending Art Annual Vol.2 『まつり、まつる』」(2018,スパイラルガーデン)、「瀬戸内国際芸術祭2016」(2016,小豆島三都半島)など
久保寛子
《やさしい手》
2018年
久保寛子
《現代農耕文化の仮面》
2019年
鹿田義彦 / Yoshihiko Shikada
1983年広島県生まれ、広島県在住。2012年広島市立大学大学院博士課程修了。視覚芸術家として美術作品の制作、平面系のデザイン、写真表現の研究、造形教育を行なっている。物事の移り変わりとその表れについて探求し、写真を用いたインスタレーションなどを発表している。近年の展示に「#ICPConcerned: Global Images for Global Crisis」(国際写真センター、ニューヨーク、アメリカ、2020年)、「瀬戸内国際芸術祭 2019」(旧大森邸、香川、2019年)。
鹿田義彦
《The Paper Lantern Floating has been canceled due to prevent the spread of COVID-19.》
2020年
鹿田義彦
《過去と現在の山にのぼり、銀未来の海をながめる》
2019年
寺江圭一朗 / Keiichiro Terae
1981年広島県生まれ。大分大学大学院教育学研究科修了。家族、神、他者や自分自身など、様々な対象に近づく方法を、四苦八苦しながら探る試みを続けている。大学卒業後、共同アトリエ3号倉庫(福岡)のレジデンス・プログラムに参加。その後も旧大賀APスタジオ(福岡)や+100P arts & studio(福岡)など共同でのスタジオ運営に携わる。2016年から1年半、ポーラ美術振興財団芸術家派遣制度及び文化庁新進芸術家派遣制度によって中国・重慶に滞在。主なグループ展に、「アーティスト・イン・アイランド壱岐2019 ことばのかたち」(2019、壱岐島内数カ所)、「3331 ART FAIR」(2019、3331 Arts Chiyoda)、「途中鏡子」(2018、GCA美術館、重慶)、「Local Prospects4 -この隔たりを-」(2017、福岡)、「第13回リヨンビエンナーレ ランデブー15」(2015、リヨン)など。
寺江圭一朗
《あなたの反応が私をつくる。私の⾏動があなたをつくる。》
2016-2019年
寺江圭一朗
《見たことがない絵》
2014年
平野薫 / Kaoru Hirano
1975年 長崎県生まれ。広島市立大学大学院修了(2003年)。ACC日米芸術交流プログラム/ニューヨーク(2008年)、文化庁新進芸術家海外研修制度/ベルリン(2009年)、ポーラ美術振興財団在外研修員/ベルリン(2010年)にて研修。布に残る気配に着目して、古着を糸へとほどき新たな形へと生まれかえるという手法を用いて作品を制作。近年は個人の記憶と社会や歴史の関係について模索。主な展覧会に、「服の記憶」アーツ前橋(群馬、2014年)、「交わるいと」広島市現代美術館(2017年)、「記憶と歴史」POLA美術館(2018年)など。
平野薫
《memento mori -grandmother-》
2020年平野薫
《untitled -rain DDR-》
2014年
Photo by Felix Weinold古堅太郎 / Taro Furukata
1975年 広島県生まれ、広島県在住。2001年、広島市立大学大学院芸術学研究科修了。2008年、ドイツにてポーラ美術振興財団在外研修員。2010年、ベルリン・ヴァイセンゼー美術大学大学院彫刻科修了。2017年より広島を拠点に活動。自分自身のルーツや場所に固有の歴史をリサーチしながら、共同体の中で変化していくアイデンティティをテーマとしている。近年は、戦後に形成された平和都市「広島」のアイデンティティーに注目し、平和記念公園のデザインの起源や核技術の矛盾に関する作品を制作している。
古堅太郎
《平和のための原子力》
2021年
古堅太郎
《完璧な抱擁》
2019年
基いの町展トーク動画
2021年12月4日(土)に行われたトークイベントの様子です。参加作家5名に、基町住宅地区でのリサーチ内容と今後のプランについてお話しいただきました。トークは、作家のリサーチに参加・協力いただいた、基町の住民の方に向けて行われました。第一部はアーティスト・トーク、第二部は車座トークになっています。
第一部 アーティスト・トーク
第二部 車座トーク
概 要
展覧会 基(もと)いの町
会 期
前 半 2021年11月6日(土)ー11月21日(日)
後 半 2021年12月4日(土)ー12月12日(日)
休場日 月・火曜日
時 間 12:00ー17:00 (最終日は15:00まで)
観覧料 無料
会 場 ユニテ、M98〈make〉、オルタナティブ・スペース・コア
主 催 まほらプロジェクト
共 催 基町プロジェクト
協 力 オルタナティブ・スペース・コア
問合せ まほらプロジェクト: mahoraproject21@gmail.com
【水~日 11:00~17:00】基町プロジェクト活動拠点 M98 ☎ 082-555-8250
【月~金 10:00~17:00】広島市立大学芸術学部分室 ☎ 082-830-1507
※2021年度広島市立大学特色研究費「基町の地域社会に関与する美術の実践」により実施
※新型コロナウィルス感染症の影響により会場等を変更することがあります
ア ク セ ス
まずはM98にお立ち寄りください。
基町プロジェクト活動拠点 M98
730-0011 広島県広島市中区基町16-17-2-103
11:00-17:00、月・火曜日は休み
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